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■ 『SAMURAIガール』立ち読み版

「ママー!あのおねえちゃんおヘソ出てるー!」

声のデカイ子供の横で、シーッと口先に指を当てた母親らしき女は、あたしと目が合うと気まずそうに会釈し、子供の手を引き早足ですれ違った。
しかし、子供につられてあたしに気づいた瞬間、全身をチェックし微妙に顔をしかめたことも、あたしは見逃さなかった。

(自慢の細いウエストを見せて何が悪い)

木枯らしの中、トップに毛皮のショートコートを着ておきながら、ローライズのジーンズと短めニットでハラ丸出しのあたしは、傍目には奇妙に映るかもしれない。
でもね、これが色気というモノなのよ、坊や。ランドセルの重そうなチビのアンタには、まだ理解できないかもしれないけど。

っくしゅん!

……さすがにちと冷えるわね。

ヘソ出しだけでもうすら寒いのに、明日の展示会なんてビキニよビキニ。それも今どきレースクィーンでもここまで食い込まなせないだろーってなカンジのハイレグ。

明日からのイベコン(イベントコンパニオン)のお仕事で着る衣装を思い出し、あたしはちょっとユウウツな気分になった。

★ ☆ ★

「おー!華子じゃん!」
数メートル先で、海野大輔がひらひらと手を振っていた。

「ちょっと!本名で呼ばないでよ!もう彼氏でも何でもないんだから」
「はいはい、麗華さま。てか、どーしたん?銀座うろつくなんて珍しくね?」
「晴海で打ち合わせだったのよ」
「晴海~!?とうとう麗華も“晴海逝き”になったんかー」

大輔は、築地にある超有名広告代理店の系列イベント会社【博通ピック】の営業マンだ。
ついでに言えば、あたしの元カレだったりする。
今となっては、なんとなく切っても切れない、いわゆる「クサレ縁」。

さすがは同じギョーカイ。コイツも「晴海の噂」を知ってたか。

「で、代理店どこ?」すかさず大輔が尋ねてくる。
「アンタんとこ」
「やっぱそーか。担当は?」
「えっと……田……なんだっけ」
あたしはさっきもらった名刺を、バッグから出して大輔に見せた。

【博通ピック 第3プロモーション本部 田宮順平】

「田宮じゃん」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、同期だよ」
「まじー!?あの人さー、けっこーカッコよくない?」
「何、お前タゲったん?」
「んー、ひとまず外見はかなり好みってカンジ♪」
「やめとけやめとけ!」
「なんでよー?結婚してるとか?」
「そーじゃねーけど、麗華には無理だな」

何それ!?

自慢じゃないけど、あたしが狙って落ちないオトコなんていないわよ!
このあたしのプロポーズ断るオトコなんて、大輔しかいないわよ!
……ってそれは余計か。あーやなこと思い出しちゃった。

「とにかく、麗華ほどのいい女でも、たぶんヤツは落ちないと思うぜ」
「そんなの、やってみなきゃわかんないじゃん。それともアンタ、もしかして妬いてる?」
「なんでそーなるんだよ!?むしろオレは、田宮ほどのイケメンなら祝福するぜ」
「じゃあなんで」
「や、それは……まー当たって砕けてみれば?」

むーかーつーくーーっ!

あ、もう時間だ、なんて腕時計見ながら、大輔は逃げるように去っていった。
あたしはその背中を見送りつつ、新たな闘志にアツくなった。

明日からの3日間。
こーなったら、イベント終了までに田宮さんGETしてやるーーーっ!!

★ ☆ ★

【2006・住宅設備機器新製品発表会】初日。

イベコン歴5年のあたしでも、晴海でのお仕事は初めてだった。

招待状を手にしたビジネスマンたちが、うようよと徘徊している。
あたしは自分の担当するブースに着くまでの道すがら、他のブースを巡回しコンパニオンたちをチェックした。

(やはり噂は本当だったのか……)


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posted by choco


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